誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
(シャルに指輪がどーのこーの言われて、それで……。)
あいなは、自分の右手薬指にはめた指輪を見つめた。
(これが一体、何だって言うの?露店で買った、どこにでもありそうな指輪じゃん……。)
装飾された透明な青い石も、きっとイミテーションだ。とはいえ、あいなにとって、この指輪が特別なものであることもたしかなのだ。
(たしかに、これは露店で買った、誰にでも買える安いもの。でも…これは……。)
指先で、そっと石をなでる。心なしか、輝きが増した気がする。
「あいな様、お目覚めになられましたか?」
「えっ?」
軽やかなノックの後、燕尾(えんび)服を来た一人の男性が、あいなの部屋に入ってきた。
年の頃は、シャルより少し年上……二十代前半くらいだろうか。整えられた爽やかな黒髪で、妙に色気のある、シャルとは違うタイプの美形だった。
「あなたも、シャルの誘拐仲間なの?」
あいなは後ずさり、警戒心に満ちた面持ちで尋ねた。シャルのことを誘拐犯だと決めてかかっている。