誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
「ふふっ。おっと、失礼いたしました。あいな様があまりにも愉快なことをおっしゃいますから、つい」
燕尾服の男は、青みがかった漆黒の瞳を柔らかく細め、自己紹介をした。
「私は、シャル様にお仕えしている、フォクシード=ルイスと申します。ルイスとお呼び下さい。シャル様の専属執事をさせていただいております。以後、お見知りおきを」
「しつ、じ?」
あいなはポカンと口をあける。無理もなかった。
「え?あなたたち、私を誘拐するためにめちゃくちゃなことを言ってたんじゃ…!?」
「あいな様がそう解釈してしまわれるのも仕方のないことです。先ほどは、シャル様が不躾な真似をしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
ルイスは頭を下げ、再びその涼やかな瞳をあいなに向けた。
「疑わないでほしいと申し上げるのも無理があるのかもしれませんが、私達は、あいな様を誘拐するために日本を訪れたのではありません。シャル様の結婚相手であるあなたをお迎えにあがったのです。
本来は私が同行するはずだったのですが、シャル様はあなたに早くお会いしたいとお急ぎになられて、あのような形に……」