誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
夢でも何でもない。あいなは、この現実をじわじわと実感していた。
(知らない人と結婚なんて、絶対嫌だ!)
悲観的な気持ちも大きい。だが、その一方で、あいなの鼓動は高揚で早くなっていた。
(王子様。執事。私が、結婚相手……。)
ワクワク感ではないし、現状を喜んでもいない。それなのに、好奇心という名の感情が、未知との遭遇に強く反応している。
「シャルの言うことを信じてるわけじゃないけど……。もしかして、この指輪のせいでこんなことに?」
あいなには、こうなることの心当たりがあった。しかしそれは、自分の予想から大きく外れたものだったため、どうしても気持ちがついていかないのである。
誰もいない静かな部屋で、あいなはじっと考えた。
(たしかに、私、結婚したかった。お父さんとお母さんみたいに、仲のいい夫婦に憧れて……。)
昔から、夢は『お嫁さん』一本だった。ゆえに、卒業後は大学進学も就職もせず、フリーターになると決めたのだ。そうすれば、勉強や仕事に時間を割くことなく恋愛に没頭できる。