誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
――あいなが自宅から連れ去られた数時間後。
友達と寄り道をしていたため珍しく帰宅が遅くなったあいなの弟・龍河は、合鍵を使って玄関に入るなり、違和感を覚えた。
「んー?なんか、嗅いだことない匂いがする」
鼻をすんすん鳴らしてその香りを深く感じてみると、不思議な気持ちになった。
「初めて嗅ぐ匂いだな。でも、どこか懐かしいというか……」
まさか、異世界の王子シャルの匂いだと気付くわけもなく、龍河はしばし首をかしげた。
「イケメン大学生がつけてそうな香水みたいだ」と、独自の感性で匂いの感想をつぶやく。
姉は、週に3~4日のペースでバイトをしていて帰宅が遅いことも多い。
龍河は、あいなの姿がないのを何とも思わず、そのうち帰ってくるだろうと思い、のんびりゲームなどしていたのだが、そんな穏やかなひとときも、ひとつの連絡により終わりを迎えた。
冷凍庫から、先日母親が買ってきた値の張るカップアイスを取り出しリビングのソファーに腰をかけると、短足テーブルの上に置いておいたスマートフォンが着信を知らせた。
発信者の名前を見て、龍河の心臓は、らしくなくドクンと跳ねた。
「秋葉さん!?」
あいなを通じて関わり合う女子高生。姉の親友であり、自分にとって幼なじみでもあるが、互いの距離は遠い。連絡先を交換しあってはいたものの、こうして実際秋葉から連絡をもらうのは初めてだった。
(姉ちゃんじゃなくて、なんで俺に!?)