誤り婚−こんなはずじゃなかった!−

「すいません、ちょっと待っててもらっていいですか?俺が気付かない間に帰ってきてるかもしれないので、姉ちゃんの部屋、見てきます」

『ありがとう、龍河君……』

 秋葉は今頃、あいなとの待ち合わせを心待ちにしながら、駅前でひとり佇んでいるのだろう。電話の向こうの心細げな声から、龍河はそんな想像をし、秋葉を気の毒に思った。


 「姉ちゃん、入るよー」

 突撃したいのを我慢しながら一応ノックをし、龍河はあいなの部屋に入った。

 あいな本人もいないし、彼女が学校から帰った形跡もない。

「すいません、姉ちゃん帰ってないみたいです。もしかしたら、家には帰らず、直接秋葉さんのところに向かったのかもしれません」

『そうだね、どっか寄り道とかしてるのかも。もうちょっと待ってみるよ』

 さっきよりも少し明るい声で、秋葉は言った。

『ありがとう、龍河君』

「いえ……。それじゃあ……」

『うん、バイバイ。またね』

 バイバイ、またね。これは、友達の弟に対する挨拶であり礼儀であると知っている。わかっていても、龍河は、秋葉からかけられるその言葉を嬉しく思ってしまうのだった。
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