誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
秋葉と二人で出かけたり、ましてや秋葉の恋人になるなんて、分不相応だと思った。
そんな龍河にとって、心臓が破裂するような出来事が起きたのは、それから一時間ほど経ってからだった。
秋葉との電話の余韻が薄れ、ようやく平常心でソーシャルゲームに集中できるようになった頃、インターホンが鳴ったのである。
「はーい」
(父さんや母さんにしては早いな、誰だ?)
真顔で玄関を開けると、そこには、不安げな面持ちで立つ秋葉の姿があった。
「あっ、秋葉さん!?」
龍河の声は、本人の意思に反し裏返ってしまう。恥ずかしげにうつむく彼の心情に気付くことなく、秋葉は早口でこう言った。
「さっきはありがと、龍河君。ごめんね、家にまで押しかけて……」
「……姉ちゃんと、まだ会えてないんですか?」
「うん、そうなの。ちょっと心配になってさ……。こんなこと、今までなかったし……」
「そうですよね……」
突然、好きな人が訪ねてきた。秋葉は自分に会いにきたわけじゃない。そう知っていても、龍河の心臓は忙しくなる。
(冷静になれ、俺!だいたい、秋葉さんは今困ってるんだから、こんな緊張してる場合じゃないって!)
二人きり。今までにないシチュエーションでの興奮は、どうしても隠すことができず、顔の火照りとなって表れてしまう。