誤り婚−こんなはずじゃなかった!−

「どうぞ、リビングで待ってて下さい」

 夕方とはいえ、初夏の外は汗ばむ。龍河は、空調のきいたリビングへ、秋葉を招いた。

「ありがと。龍河君って、モテるでしょ?」

「えっ。全然、そんなことないですよ」

 全然、そんなことはある。自分でも、女子からの人気が高いことを自覚していた。しかし龍河はそれを何とも思わなかったし、秋葉には知られたくないとも思っていた。

 そんな龍河の本心を知るよしもない秋葉は、親友の弟と少しでも打ち解けたいと思い、気さくに言葉を投げた。

「ウソー。龍河君、かっこいいし気配りもできるし、彼女とか普通にいそうに見えるよ~」

「そんなことないですよ。秋葉さんの方こそ、人気あるんじゃないですか?」

「そんなことないよ。この前も彼氏にフラれたばっかだし」

「そうなんですか?すいません……」

「いいよ。もう終わったことだし、私もそのことは忘れたから」

 龍河は反射的にドキッとしてしまった。

 秋葉には、今、彼氏がいない――。だからといって自分にチャンスが巡るなんて微塵も思わないが、秋葉が誰かのものでなくなったことは、素直に嬉しかった。
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