誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
「さぞ、賑やかなご家庭だったのでしょうね。やはり寂しいものですか?こうしてご家族と離れて暮らすのは」
「はい。急な話でしたし、やっぱり、ちょっと……」
あいなの瞳は、涙のせいでかすかに潤む。大切な家族と離れて、突然ひとりの空間に閉じ込められるのは寂しい。こうしてルイスに色々話しかけてしまうのも、普段弟と気楽な冗談を言い合っていたせいだ。
しかし、ここで大人しくシャルの言いなりになるつもりはない。
「泣くなんて、私らしくないっ」
弱音を瞬時に吹き飛ばし、あいなは強気な目付きで言った。
「私、絶対シャルに嫌われてみせるし、そうして他の恋を探しますからねっ!」
「あいな様は、これまでも積極的に恋をされてきたのですか?」
「うん、色々とねっ!」
じゃっかん、声が裏返ってしまう。誇れる恋愛などしたことがないけれど、片想い惨敗の事実など人にはとても言えないので、見栄を張るべく、誇らしげな表情を浮かべて見せた。
「シャル様にお仕えする者としても、興味がありますね。あいな様は、これまでどのような恋を?差し支えなければ……」
「ルッ、ルイスさんこそ、恋とかしないんですかっ?彼女の一人や二人、いそうに見えますがっ」
苦しいかも、と思いつつ、あいなは質問返しでピンチをのりきった。とてもじゃないが、失恋の経験などもう思い出したくもないのだ。