誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
あいなが振り向くと、そこには、青を基調とした正装に身を包んだ銀髪の美青年が立っていた。彼の青い瞳はどこか陰があるのに、そんなものをかき消すくらい、纏(まと)う雰囲気は柔らかい。
「あなたは……!」
その青年の姿を見て、あいなは衝撃を受ける。目を、これでもかというほど見開いて――。
「僕は、ハロルド=バンクス。バロニクス帝国の者で、シャルとは幼なじみなんだ」
「ハロルドさん、ですか……。シャルなら、さっき執務室に戻りましたけど……」
ハロルドがシャルを探しているのだと思いあいなはそう告げたのだが、ハロルドの目的はシャルに会うことではないらしかった。
「教えてくれてありがとう。でも、今日はシャルに会いにきたわけじゃないんだ」
「そうなんですか、すいません、余計なこと言って」
「いいんだよ。今日はね、ただなんとなく、ここへ来てみただけだから」
怒るでもなく、困るでもなく、穏やかな口調のハロルドに、あいなはすっかり目を奪われていた。
なぜなら、彼が、初恋の相手にそっくりだったからである。髪色や目の色などは全く違うが、声や顔のつくりがそっくりそのまま初恋相手と同じなのである。
(まさか、これも、エトリアの泉の力……?なわけないか……。シャルも、そんなこと言ってなかったしな。)