誤り婚−こんなはずじゃなかった!−

 あいなの初恋は小学生の時。相手は、年上のイトコの友達だった人だ。当時、相手は大学生で、小学校に通うあいなの宿題をよく見てくれた面倒見のいい男性だった。

 しかし、その恋は実らなかった。

 彼は大学を中退し、当時付き合っていた恋人と結婚をしたのだ。

 自分が彼女になれるだなんて小学生の自分には考えられなかったが、それでもやはり大好きな人が他の女性を選んだという事実は悲しかった。けれど、不思議と喜びもあった。

 あいなにとって、初恋の思い出は複雑かつあたたかいものだった。この記憶があったからこそ、恋で幸せになるという目標に向かって積極的になれたのかもしれない。

 近頃では忘れかけていた記憶の欠片(かけら)。年上の初恋相手。遠い過去の恋。

 ――ハロルドの顔を見たら瞬間的に思い出し、あいなはしばし、銀髪美青年の顔を見ていた。

「驚かせてごめんね。よかったら、君の名前を訊いてもいい?」

「あ、はい。こっちこそボーッとしてすみません。神蔵あいなといいます」

「カミクラアイナさん。……君なんだね、シャルの婚約者というのは……」

「……ははは……」

 そうですと素直に認める気になれず目をそらし、あいなはごまかし笑いをする。

「おい!」

 そこへ、さきほど庭園を出ていったはずのシャルが小走りであいなの元にやってきた。
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