誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
「シャル、どうしたの?仕事の件でルイスさんに呼び出されたんじゃなかった?」
あいなの問いには答えず、その代わりというようにシャルは銀髪青年の腕を強く引いた。
「何しにきた、ハロルド……!」
「散歩、かな?」
興奮気味なシャルとは反対に、ハロルドは極めて落ち着いていた。その整った顔に微笑まで浮かべる。
「久しぶりだね。君に会えて嬉しいよ、シャル。元気だった?」
「ふざけるな。自分の国に帰れ。ったく、アイツらも何でこんなヤツを城に入れたんだ」
メイド達の方を見やりながらブツブツ言うシャルを、あいなはピシャリと止める。
「せっかく訪ねてきてくれた幼なじみに対してそんな言い方ないんじゃない?」
「お前はコイツの本性を知らないからそんなことが……!」
「ひどいよ、シャル。そんな、まるで僕が猫かぶりの性悪みたいな言い方」
ちっとも落ち込んだ様子ではないハロルドが、笑顔で口をはさむ。
「ありがとう、あいなさん。そんな風に言ってくれて」
「いっ、いえっ」
ルイスとはまた別の優しい系男子登場! あいなは心の片隅でそう思った。
「あいなさん、シャルは不器用だけどとても優しい人なんだ。僕にきつく当たるのも悪気があってのことじゃない。大目に見てあげて? じっくり付き合うと、そのうちシャルの良さがわかってくると思うから」
ウィンクまでしてそんなことを言われたら、あいなはハロルドの言葉にウンと返さざるを得ない。