誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
「お前……」
シャルは苦虫を噛み潰したような表情でハロルドをにらむ。
「腹黒いな、相変わらず。とにかく、あいなに気安く話しかけるな。俺の婚約者《フィアンセ》だぞ」
「君はそんなに狭量な男だったかな? シャル」
「何とでも言え。行くゾ!」
あいなの手を引き、シャルは早足で庭園を抜けた。
珍しくシャルが言いくるめられていた。しかも物腰の柔らかい紳士的な美青年に。
「ぷっ」
思い出しただけで、あいなは笑いがもれた。
その後あいなの部屋に戻った二人は、テーブルを挟む形でソファーに向かい合って座った。
「アンタがあんなにやり込められるトコ、初めて見た!」
「初めて見たってほど、知り合って長くないだろ」
「言葉のアヤだよ。けど、ハロルドさんいい人だね。あの人もどっかの国の王子様なの? それっぽい衣装着てたし」
「アイツは、バロニクス帝国の第三皇子だ。王位継承権はほぼないに等しい。そのせいかノホホンとして見えるけど、何考えてんのか分からないヤツでな。俺は苦手だ」
「そう?すごい優しそうな人じゃん。アンタのこともさりげなくフォローしてたし。少なくとも、アンタよりは紳士的だし『王子!』って感じがした」