誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
4 予期せぬ訪問者
――現在より8年前。
当時12歳だった王子シャルは、自分のやるべきことーー。執務室での勉強を放り出し、たびたび義務をサボるようになっていた。
庭園に出たシャルは毎回決まってエトリアの泉の水面を眺めていた。勉強をサボらない日も含め、1日に一回は必ずこうしている。
シャルの日常を表したかのように穏やかな水面には、浮かない顔をしたブロンドヘアの少年が映る。
この頃すでにシャルの専属執事をしていたルイスは、シャルより数分遅れてエトリアの泉に現れた。ルイスなりに息抜きを望んでいるのであろうシャルの心情を考え、わざと遅く追いかけていたのである。
とはいえ、勉強の時間にしっかり学習をしてもらうのは執事である自分の役割。立場上ルイスも、シャルを長い時間自由にさせておくわけにはいかないのだ。
なぜ、こうまでして執事という仕事に忠実であるのか。
それは、かつて孤児だった自分を引き取りロールシャイン王国の人間として育ててくれた現国王――シャルの父親に対する義理だ。