誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
孤児院の者が言っていたことである。
ルイスの両親は彼が産まれてすぐ流行り病にかかり亡くなった。ゆえにルイスには実の両親の記憶がない。物心ついた時からロールシャインのルイス=フォクシードとして生きてきた。
フォクシードという名は、シャルの父親の親友からもらったものである。孤児院から出たルイスは、すぐ、貴族の家系であるフォクシード家の養子になったのだ。
フォクシード家には子供が授からなかったので、ルイスはおおいに歓迎された。
跡継ぎ問題だけではなく、子供がいる家庭というのはそれだけで家の中を明るくする。フォクシード夫妻はルイスを大切にすると誓った。
しかし、あまり健康ではなくむしろ病弱だったフォクシード家の人間も夫婦共にすぐに亡くなってしまった。そのため、ルイスはフォクシードの名を継いだままシャルの父に呼ばれてカスティタ城へ来ることとなった。
「なんて不憫(ふびん)な子なんだ。本当ならルイスを自分達の子供として育てたい」
シャルの父・現国王はそう考えていたが、彼の妻はそれを拒んだ。理由はひとつ。ルイスは物ではない。一度フォクシード家の子供になったのだから、フォクシード家の人々が亡くなったからといって簡単に自分達の養子にするのは人として間違っているのではないかと。
よって、ルイスにはシャルの専属執事を任せると決め、彼を城で育てることにした。
ルイスに残されたのは産みの親が名付けたその名前だけである。