誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
ルイスの産まれた国はロールシャイン王国とは別の国にある貧しい村だった。
もしあのまま孤児院に居たら、身寄りのない労働者として低賃金で重労働をさせられ、最悪の場合幼くして餓死していただろう。
貧しい村では、保護者を持たない孤児は親のある子供に比べぞんざいに扱われるのが常だった。皆自分の生活を維持していくことで精一杯なのである。
もし現国王の目にとまらなかったら、自分は今こうして健康でいることすらできなかったかもしれない。
感謝の思いだけでこれまで仕えてきたが、良くも悪くも今の生活しか知らないルイスは目の前の現実に嫌気がさしていた。なぜなら、シャルがワガママ放題であるがゆえ自分にもそのとばっちりが来てしまうからである。
自分がどれだけ努力して仕事を覚えても、シャルに王子としての自覚が欠けていればルイスの行いは無意味とみなされる。
エトリアの泉をぼんやり眺めているシャルに追いつき、ルイスは声をかけた。
「息抜きはできましたか? もうじき昼食のお時間ですし、あと少し頑張りませんか?」
「もうちょっとだけいいだろ」
「シャル様……。もう少しだけですよ」
気付かれないよう小さくため息をつき、ルイスはシャルに従った。
10歳の頃シャルの専属執事になり早5年となるが、いまだにシャルの気分に振り回されてしまう現状を考えると、自分は執事に向いていないのではないかと思えてくる。