誤り婚−こんなはずじゃなかった!−
空間転移の術は、この時代に魔法として存在するしルイスもその術は習得している。突然現れたあいなと龍河でも、魔法を使えばここへの侵入は可能だ。
しかし、おまじないを使っての空間転移など聞いたことがない。魔法を習った者にとって、おまじないほど不安定で効き目のない術(すべ)はないと考えてしまうし、実際効率が悪いのだ。エセ占い師の予言なみにアテにならない。
そもそも、この世界で言われるおまじないは太古のものとして捉えられており、現代でそれを使う人間など見たことがない。
(この少女は一体何者なんです……!?あえてこんな古く成功率0と言われてきた術式を使い、また、それを成功させた所を見ると、この世界の人間ではない可能性が高い。しかも普段から魔法を使いこなしているようには見えない。素人ですね……。今回のこのまじないも気まぐれか遊びの一環で偶然やってみただけのことでしょう。とはいえ、魔法の熟練者すら成し得なかったまじないを成功させるなど、ただ者ではないですね。)
動揺の渦にのまれ黙りこくるルイスとは反対に、シャルは太陽のように晴れ晴れとした表情で少女達に近付いた。
「お前達どういう魔法使ったんだよ!?おまじないって何?『夢の世界』って初めて聞くけど、そんなもんがあんの?俺も連れてってくれよっ!」
「ここが私達の行きたかった夢の世界だよ。あなたはここの人?」
「ああ、一応この国の王子やってる。視察であちこち見てるからどんな場所にも行けるぜ」
「すごい!王子様なんだぁ!なんかかっこいいね!」
「そっ、それほどでもねぇって」
初めてまっさらな誉め方をされ、シャルは照れた。それに、何者かは分からないが、こんなに心を開いて自分に接してくる人間はこの少女が初めて。
シャルの胸は生まれて初めて感じる高鳴りを覚えた。