誤り婚−こんなはずじゃなかった!−

「春になったとはいえ、アイスなんか食べたら寒くない?」

「アイスは季節問わずおいしいから」

 龍河は無類の甘党で、特にアイスが大好物なのである。それが分かっているのに、弟が薄着でアイスを頬張る姿を見るとこちらが寒くなるので、あいなはつい、そんなことを尋ねてしまうのだった。

「これからゲーム?」

「うん。ギルドメンバーの人達、みんなin《イン》してるから」

 インしている、とは、ゲーム仲間がゲームサイトにログインしゲームに参加している……という意味である。あいなも、少し前から同じゲームをやっていた。

「じゃあ、私もinしよっと。せっかくバイトが休みで、時間もあるしね」

 ソーシャルゲームの話だった。この神蔵姉弟は、二人そろってゲーム好きである(龍河に誘われてあいなが引き込まれる、というパターンがほとんど)。

 はじめのうちは面倒に感じたオンラインネットゲームも、龍河と一緒にプレイするうちに、あいなは面白いと思うようになった。


「そういえば姉ちゃん、今朝より元気になったな」

「えっ、そう!?」

「うん。今朝は、この世からゲームが消失した並みに暗い顔してた」

「マジか。っていうか、その例えはおかしくないかい」

 ツッコミを入れつつ、あいなは内心ドキッとしていた。今朝の自分は、片想い連続連敗という厳しい実体験を表情に出してしまっていたのだろうか。隠していたつもりだったのに。
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