本当の君を好きになる
『──もしもし?』
その声に、私の足は自然と止まっていた。
『──あれっ?もしもーし?』
電話の先からは、いつものように癒しの声が聞こえてくる。
「あっ、もしもし樋野くん?」
『うん。急にどうしたの?』
「あっ……いやっ……そのー……。」
まさか電話に出るとは思っていなかったので、言葉が出てこない。
そう思っていると、私の手からスマホがスルッと抜けた。
驚いて、そちらに目を移すと湊くんがスマホを耳に当てている。
「──樋野か?お前、今どこにいる?」
そうだった。
私が聞かなければいけなかったことは、樋野くんの居場所だ。
あまりにも普通に電話に出てきたから、驚いて何も聞けなかった。
「教室ってどこのだよ?……はあ?お前、本当のこと言わねぇと……」
そこまで言ったところで、湊くんの言葉は止まった。
私と直登は彼の様子を見て、その視線の先に目を移す。
すると、そこにはスマホを耳に当てた樋野くんが教室から顔を覗かせていた。
そして、そのままこちらに向かって歩いてくる。
「……どうしたの?そんなに息切らせて。僕何かした?」
きょとんとした様子の樋野くんに、湊くんは冷静に尋ねる。
「何かしたんじゃねぇのか?」
「……桐谷くん。何か今日雰囲気怖いね。何をそんなに焦ってるの?」
「──井上さんと会ってたんだろ。」
その一言に、場の空気が一変したような気がした。
その異様な雰囲気を感じ取ったのか、廊下を歩く生徒も少なくなった。
樋野くんは、驚いた顔をしていたが、次の瞬間フッと笑う。
「──何?見てたの?」