本当の君を好きになる
「──何?見てたの?」
そう言って笑う樋野くん。
ゾクッと冷えた背筋に、大きな恐怖。
触れてはいけないことに触れてしまったような気がする。
しかし、湊くんと直登は全く怯んでいないようだった。
「じゃあ、井上さんといたってことは認めるんだね?」
「認めるよ。でも……見られてたのなら、僕かっこ悪いね。」
「え?」
さっきの怖さは何だったのか、一瞬で普段の雰囲気に戻る樋野くん。
コロコロと変わる彼の表情に、私は戸惑いを隠せなかった。
「だって、最近凪沙が一人になることって少なかったし、チャンスだと思ったんだよね……。何か、桐谷くんが守ってるような感じだったから。」
え?
どういうこと?
ていうか、今『凪沙』って呼び捨てした?
しかも、チャンスって何が?
「何を企んでるの?」
落ち着いてきたのか、湊くんの口調も、大分元に戻り始める。
「企んでる訳じゃないよ!ただ……僕は凪沙と話がしたかっただけだよ。」
キーンコーンカーンコーン──。
昼休み終了の合図が鳴り響く。
すると、樋野くんが慌てて話をし始めた。