本当の君を好きになる
***
──ピンポーン。
インターホンの音が鳴り響き、私は「はーい!」と返事をする。
ガチャリと扉を開けると、爽やかな男性が立っていた。
「あ、井上さんのお宅ですか?」
「あ、はい。そうですけど……。」
「僕、今日から菜月さんの家庭教師としてお世話になります、樋野綾人と申します。」
「あー!家庭教師の!!ちょっと待ってくださいね!」
私は、そう言うと二階にある妹の菜月の部屋に向かう。
そして、トントンと部屋の扉をノックする。
「菜月!家庭教師の人、もう来てるよ!」
「えっ!?ちょっ、ちょっと待って!!」
ガチャリと扉を開けると、菜月は絶賛おめかし中といった感じだった。
部屋は、いつもよりも綺麗に整理され、ほのかに甘い香りがする。
普段、履かないようなスカートを履き、髪も緩く巻いてるし……。
「ちょっ、お姉ちゃん!!開けないでよ!!」
「いやいや、何してるの?そんなにおめかしする必要ある?勉強するのに……。」
「だっ、だって!お母さんが、家庭教師の男の子すっごくイケメンだったよ!って言うから、ちょっと気合い入っちゃって……。」
「あー……まあ、確かにね。でも、あまり待たせられないから、とりあえず上がってもらうからね。」
「わ、分かってる!!あと五分だけちょうだい!!」
「もー……仕方ないなぁ。」
私は、扉を閉めると再び玄関へと向かう。
先程の男性は、私の姿を確認すると苦笑いを浮かべる。
「……もしかして、来るの早すぎましたか?」
「あ、そんなことないですよ!!妹の準備が遅くて、申し訳ないです!!」
「あ、お気になさらず!」
「とりあえず、ここで待ってもらうのも申し訳ないので上がってください。お茶とか入れますから。」
「あー……気を遣って頂いて申し訳ないです。」
「大丈夫ですよ!どうぞ!」
そんな話をしていると、階段をダダダダッと駆け降りてくる音が聞こえた。
菜月は、そのままの勢いで私の隣に立つと、家庭教師の姿を見て、あからさまに頬を赤らめる。
「あ、菜月さんですか?」
「あ、は、はいっ!!井上菜月です!!」
「あ、今日から家庭教師としてお世話になる樋野綾人です。よろしくお願いしますね。」
そう言って優しい笑顔で微笑みかけられ、更に顔が赤くなる菜月。
……勉強になるのだろうか。
そう思いながら、私は二人の背中を見送る。
まあ、これで菜月の勉強のやる気が出ればそれで良いんだけどね。そう思っていた──。