本当の君を好きになる
ていうか、菜月の受験が終わってしまったら、もう綾人くんにも会えなくなるのではないだろうか?
同じ学校に通っているという訳でもないし、家庭教師の仕事が終わってしまえば、ここに来る理由も無くなる。
もしかして、別れはもうすぐそこに迫っているのではないだろうか……?
そう考えると、私の気分は更に落ち込んだ。
と、その時ポンポンと肩を叩かれた。
「──!?あ、綾人くんか……。」
「ごめん。声かけても気づかなかったから。何か考え事してた?」
「あー……ちょっとボーッとして……。」
「凪沙ちゃんも風邪引いてるんじゃない?ゆっくり休んだ方が良いよ。」
「う、うん。ありがとう……。」
「じゃあ、菜月ちゃんの体調が回復したらまた連絡ちょうだいね。そしたら、家庭教師再開するから。」
そう言って、荷物をまとめると玄関へと向かう。
私も、いつものように見送ろうとついて行くが、知らない内に手を伸ばしていた。
ガシッ。
知らない内に掴んだ彼の腕。
綾人くんは、驚いてこちらを振り向く。
私も、自分のまさかの行動に驚いて、目をパチクリさせるしかなかった。
「……どうしたの……?」
綾人くんに尋ねられ、ハッとした私はそのまま手を離す。
「あ、ごっ……ごめんっ……。な、何でもないのっ……!」
私は、そう言いながら前髪で必死に顔を隠す。
恥ずかしさで、彼の事が見れない。
しかも、情けなくて視界が少しずつ滲んできた。
すると、綾人くんが私の腕を掴む。
そして、真剣な顔で私の顔を見つめてきた。
「……何でもない人が、こんな悲しい顔する……?」
そう指摘され、私は何も言い返すことが出来なかった。
そう尋ねてきた綾人くんも、少し悲しげな表情をしていた。
「……苦しいの。」
私が話し始めると、私の手を掴む手の強さが少し弱まった。
「……何が苦しい……?」
「……綾人くんと話してると……苦しい。」
「……僕のせい……か……。」
綾人くんは、そう弱々しく呟いたかと思うと、私のことをギュッと抱き締めた。
驚く私をよそに続ける。
「……あのさ、もっと苦しめてもいい?」
「……え?」
「僕、君の事が好きだ──。」