本当の君を好きになる
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「飲み物買ってくるわ。」
そう言って、幸坂くんは空き教室を後にした。
私は、一人で涙を流し続けていた。
と、その時教室の扉が開く。
思っていたよりも帰ってくるのが早かったなと思い顔をあげると、そこには、綾人くんが立っていた。
私は、目を大きく見開いて何も言えなかった。
綾人くんは、真剣な表情でこちらを見つめてくる。
「……凪沙。」
そう呼ばれた瞬間、心臓が激しく音を立てた。
こちらに近づいて来ようとする彼に対して、
ガシャン!!
と側にある机を押し倒した。驚いた彼の動きは止まる。
「凪──」
「──来ないでっ!!」
私は、大きな声で叫ぶ。
彼は、悲しそうな表情を浮かべるが、首を横に振る。
「……凪沙、お願いだから話を──」
ガシャン!!!!
と、今度はお弁当の置いてある机を押し倒した。
無残にお弁当の中身が床に散らばっていく。
「──もう私に近づかないで!!私になんて関わらないでよ!!」
「そんなの無理だよ……。僕は、ずっと──」
「もう何も聞きたくない!!私たちのことは、綾人くんには関係ないんだから口出ししないでっ!!」
「関係ない訳ないだろ!?」
「関係ないよっ!!」
私はそう言って制服の袖で、うっすらと浮かんだ涙を拭う。
「関係ないから……もう忘れてよ……。お願いっ……。」
私がそう呟くと、彼は肩を落とす。
「……また来るよ。」
そう言って、教室を出ていった。
私は、ハッとして廊下に出るが、もう綾人くんの姿は無かった。
フラフラとした足取りで、廊下を歩き、トイレに入る。
違う……。
もっと彼を楽にさせてあげられる言葉かけがあった筈だ。
結局、私には彼を傷つけることしか出来ない。
彼が私の前に現れれば傷つくことしかない。
だからこそ、近づいてほしくない。
関係をもってほしくない。
でも、うまく表現できない。
情けない。
……本当に、情けないっ……。
「うわああああああっ!!!!」
私の悲痛な叫び声は、トイレの中に響き渡った。