本当の君を好きになる
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「──どこまで知ってるの?」
人の温度に触れて少し落ち着いたのか、湊くんは冷静に尋ねてくる。
廊下側の壁に寄りかかって座り、窓の外を眺める。
「そんなに知らないよ?花火大会の時、一緒にいた女の人は、新しいお母さんだってこと。今、一緒に暮らしていること。あとは、湊くんが家に帰りたがらないのは、お母さんのことを受け入れきれてないんじゃないかなぁとか?」
「……なるほどね。」
そう返事をしながら、湊くんはまたソワソワし始める。
不安なのだろう。
「……まあ、確かに受け入れきれてはいないと思うよ。本当に突然のことだったし。春哉は随分と、あの人のこと気に入ってるみたいだけど……。また、前と同じことになるんじゃないかって不安で……。」
「前と同じこと……?」
「……うん。あの人、妊娠してるんだよ。来年の1月には生まれるらしい。……今まで言ってなかったけど、春哉と俺は、それぞれ違う母親から生まれてきたんだ。」
「……え?」
あまりの驚きに、湊くんの方を向く。
彼は、片手で顔を覆い、辛そうな様子だ。
「俺の母親は、俺が小さい時に亡くなったんだけどね。記憶にもないよ。……春哉の母親は、春哉を生んでからすぐに離婚して、家を出ていった。それ以来、おばあちゃんが、ずっと俺たちの面倒を見てくれてる。」
「……お父さんは?」
私がその言葉を発した時、彼の表情はさらに苦しそうに歪む。
「アイツは……何を考えてるのか分からない。新しい奥さんが出来る度に帰っては来るけど、ほとんど会話なんてしないし。子育てなんて、本当に関わってないだろう。……全てをおばあちゃんに押し付けて……無責任な奴だよ。」
「……そうだったんだ。」
「……だから、今回も不安でね。また子供が生まれたら離婚して……更におばあちゃんの負担が増えるんじゃないかって。それを考えると、あの人の事も認められなくてさ……。最近家に帰りたくないんだ。」
少しずつ語られる事実に、私は胸が一杯になる。
こんなことを、一人で抱え込んでいたなんて……。