本当の君を好きになる
「──すみません、早退します。」
え?
「あ、あら、そうなの?気を付けて帰ってね?」
直登は、机に置きっぱなしだった荷物を背負うと、何も言わずに出て行った。
教室の中は、一気にザワザワと騒がしくなる。
色々な呟きが聞こえてくる。
「何か怖くなかった?」
「いつもと雰囲気違ったよね。」
「どうしたんだろう?」
「桐谷くんと一緒だったんだよね?」
「何かあったのかな?」
今すぐにでも、直登を追いかけたい。
何があったのかを聞きたい。
でも、私には今の状況で席を立つ勇気も、教室を飛び出す勇気もない。
私は、何て弱い人間なんだろう……。
今の、私には黙ってタオルを握ることしか出来ない。