本当の君を好きになる
「瀬戸さん。僕に貸して?」
「あ、はい。」
そう言われ、チョークを差し出す。
先程までの私への態度はどこへ消えたのだろうか、今は完全なる王子を演じている。
チラッと後ろを見ると、キラキラと目を輝かせている女子生徒たち、怪訝そうな顔でこちらを見る数学教師の姿があった。
カチャリ。
その音で我に返る。
気づけば、黒板には数式が書かれていて、チョークは元の位置に戻されていた。
「先生、これでどうですか?」
「幸坂くん、僕は瀬戸さんに解くように言ったんだけど──」
「──瀬戸さんが分からなかったみたいなので、代わりに僕が解きました。僕の答えは合っていますか?」
被せ気味で言い返す直登。
教室の空気が、ピリピリした物に変わる。
直登は、ニコニコと笑っているが、その笑顔は偽物。
心中穏やかでは無いのだろう。
「……………合ってる。」