完璧な彼は、溺愛ダーリン
「俺の事、迷惑だって思ってる?」
「……」
一度、ゴクリと生唾を飲み込む。喉がカラカラで張り付いた様で、声が出ない。
喉の奥まで出かかっているのに。
迷惑だって言うんだ。
好きじゃないって。言うんだ。
「君を好きだって気持ちなら誰にも負けないよ」
見た事ないぐらいの真剣な瞳。
ジムで見る彼は、爽やかでいつも笑っていた。
こんなに真面目な顔をしているところを見た事がない。
「迷惑なら……この手、振りほどいて」
「……っ」
ぎゅうっと胸が締め付けられる。
痛みを隠しながら私はゆっくりと息を吸う。
それから、彼の手を一気に振りほどいた。
そして、葛木さんの顔を見ずに駐輪場まで無我夢中で走った。
「はあ、はっ、はあっ……」
肩で息をしながら私は駐輪場まで来ると自分の自転車の前まで向かう。
それから、カバンから鍵を取り出し差し込もうとするが―――震えてうまく差せなかった。
カチャカチャと何度も鍵がぶつかって、反対の手で自分の手を握り締める。
何で震えているの。
何で。
ぎゅっと奥歯を噛み締める。
慎重にそっとゆっくりと差し込んで、やっと鍵が入りカチャンっと開く音がした。
心臓の鼓動がとてつもなく速い。
ドッドッとうるさい。
自宅までがむしゃらに走った。
急いで自分の部屋に入って、やっと強張った体が緩んだ気がした。