結婚したくてなにが悪い?!

オリエンテーションも残り2日となった休日。
休日と言っても私達(講師側)には休日はない。
資料確認や報告書やらと、やらなくてはいけない事が沢山ある。そのうえ新人の行動にも目を光らせておかなくてはならないのだ。

ぼちぼち、気の緩みが出てくる頃だわね…?

エレベーターに乗っていると、ぞろぞろと新人男女が乗り込んで来た。今日は実習も休みで気が緩んでいるのか、私や他の教官が乗ってる事を気にしていない様だ。

『ねぇさっきの人カッコ良かったよね?』
『うん! あの人って初日に講義してくれた人だよね? 女性客も虜にするって噂だよ?』
『えーただのオッサンじゃん?』
『どこの人だろ? 私終わるまでに声掛けてみようかな?』
『マジかよ?』

彼らが話してるのは、多分、大田さんの事だろう。私も講義を見学させて貰ったが、とても受けが良かった。と言うより、やたら女の子達に愛想を振りまいていた気がする。

そんな事より、どうする…?
このまま彼らを放っておく?
私が放っておけば、この子達はきっと切り捨てられる。

ため息を1つついて、予定のない最寄りの階のボタンを押した。そしてドアが開くと、私は降り際に振り返る。

「あっ君達ちょっと手伝って欲しい事があるから、私に付いて来てくれない?」

新人男女6人は戸惑いながらも、私に付いてエレベーターを降りて来た。

「あの…手伝いってなんでしょ? 私達、今日は実習も全て休みですよね?」

エレベーター内で、やたら太田さんを格好良いと言っていた女の子が、不満そうに言う。

「あーそうだったわね? 今日は貴方達お休みだったわね?」

彼らは研修期間中、ホテルの敷地から出る事は許されない。つまり拘束されてる様なもの。その為休みの日だろうと、彼らにもしっかり2週間分の給金が払われる。

「じゃー私達手伝わなくても良いですか?」
「ええ良いわ、ごめんなさいね?」

『休みの日までこき使うなって言うの!』
『ホントだぜ! マジありえねぇ!』
『ねぇ今夜私達の部屋来ない?』
『行く行く!』

新人達はブツブツと文句を言いながら、私から離れて行った。




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