結婚したくてなにが悪い?!
その時、眩しかった日射しを影が覆った。
「良かったな? あんた生田の事好きだっただろ?」
え?
「プロポーズ受けるんだろ?」
「立ち聞きしてたんですか?」
生田さんに対する初めの印象は、こわくて厳しい人だった。
でもそれだけじゃない。スタッフひとりひとりをちゃんと見てくれている。
普段は見守っていて、いざという時はちゃんとフォローしてくれる人。
スタッフが失敗しても叱るだけでなく、どうしてそうなったのか、話をちゃんと聞いて指導してくる。だから、誰からも頼られる素晴らしい人で、私の憧れのひと。
この人に近づきたい。
追いつきたい。
そして褒めてもらいたい。
そのいっしんで私は頑張ってきた。
大田さんが言うように、生田さんを好きか嫌いかで言えば、勿論好きだ。生田さんの事は、信頼も尊敬もする。彼と家族になれれば幸せかも知れない。
ただそれは、結婚をしたいという私の下心であって、愛ではない。どんなに信頼して尊敬出来る相手でも、愛が無い結婚は互いを不幸にする。
「生田さんのプロポーズは受けませんよ!」
「どうして? 生田は良い奴だぞ?」
「太田さんに言われなくても知ってます。入社以来ずっと見てきたんですから?」
「愛が無い結婚は出来ないってか? その歳でそんな事言ってると、一生結婚なんて出来ないぞ?」
「仕方ないです…」
「彼奴は会社からも期待されてる。出世コースにいるのは間違いない。あんたの希望する結婚が出来るんじゃないか?」
「・・・・」
「退職するなら、早めに届け出せよ? まぁ通常1か月前だが、なんなら今から有給消化に入ってもらって良いぞ? やる気の無い奴に居られても困るし、こんなとこで寝てないでさっさと帰れば?」
悔しい…
なんでそこまで言われないといけないの!
私の気持ちは…
「大きなお世話です!生田さんとは結婚しないって、言ってるじゃないですか!!」
私は起き上がると、スーツの汚れを払い、太田さんを睨み付けた。
「だれに何を言われようと、自分の人生は自分で決めます!」
私は汚れたスーツを着替え、生田さんの元へ行った。
「生田さん先程の・・」
「えっもう俺振られる? あーあーやっぱり振られちゃうパターンか?」
え?
生田さんは楽しそうに笑って言う。まるで私が断る事を知っていたようだ。
「で、仕事は?」
「処分が出るまでは、働かせて貰いたいと思います。」
「うん。分かった。頑張って? もし、気が変わったら、言ってよ? 俺はいつでもウェルカムだから?」本気なのか、冗談なのか分からないけど、でも嬉しい。
「ありがとうございます。仕事に戻りますので、失礼します。」