結婚したくてなにが悪い?!
そこにいらしたのは総帥の奥様だった。
「深田、こちらのお客様が、あんたに話があるそうだ。」
お客様の前であんたって…ホテルマンとしてどうなの?
そっけなく言う大田さんの耳元へ、お客様の素性を囁き伝えた。
「大田さん、こちらは、総帥の奥様なんです。」
だが、大田さんは気にする様子もなく、話がしやすいようにと、空いてる部屋の鍵を渡してくれた。
「すいません…先ほどは大田が失礼な態度で…いつもの大田はあんなんじゃ無いんですが…」
「評判は良い様ですね?」
「まぁあれだけのイケメンですし、いつも笑顔は絶やさないですから、お客様にも評判よくて、特に女性客からモテモテなんですよ? だからと言って、チャラいと言うのと違って‥‥お客様の事を第一に考えてます。本当に優しくて、ちょっとしたお客様の変化も見逃さない、凄い人なんです。」
「貴女はあの方をよく見てらっしゃるのね?」
「見てると言うか…私自身が、何度も助けて貰って…感謝はしてます。意地悪だし、憎たらしい事も言うんですけど、本当は優しくて思いやりがあって…他人の為でも、労を惜しまない人だと知ってますから。多少は意地悪されても多目にみてるんですよ? それに、今の私があるのも、あの人のお陰ですし…尊敬はしてます。」
「ありがとう…」
「え?」
「いえ、昨日はありがとうございました。穣の為にあそこまで怒ってくださって、本当に感謝してます。
昨日もお話ししましたが、当家はとても複雑なんです。その為に穣には小さい頃から、甘やかして育ててしまって…本当は複雑だとか関係ないのに…」
「そうですよ? ダメなことはダメ! 諦めさせることも親の優しさだと思います!」
「そうですね…?」
「あっすいません…私なんかが出過ぎたことを言いました‥」
「いえ、実は貴方に折り入ってお願いがあって伺ったんです。…穣があんな子ですから…会社の派閥争いに巻き込まれている様なんです。」
派閥争い?
「あなたが、本当に穣のお嫁さんになってもらえると嬉しいんですけど? 一度考えてもらえないかしら? あの子も貴女の事気に入ってる様ですし」
「すいません。それは…」
「もう結婚を約束してる方が居らして?」
「結婚を約束してる人はいません。ただ、好きな人はいます。最近自分でも気がついたばかりで、相手には伝えること出来ませんが…」
「なぜ? もしかして既婚者の方?」
「いえ、独身です。でも、結婚や恋愛に興味ないと、言われてますから、今のままの関係が良いと思いますので…」
「そう。 残念だわ…貴女にお嫁に来てもらえると嬉しかったけど…ごめんなさい。変なことお願いして・・忘れてください。」
「いえ、 そう言って頂いただけて光栄でした。ありがとうございます。」