結婚したくてなにが悪い?!
アパートへの帰り道、バーに行った事を後悔していた。
あっビール忘れた!
クッソー!
マズイ酒に(酒は美味かった)あんなに金払ってそのうえビールまで忘れてくるなんて、災厄!
「彼奴のせいだ! もう二度とバーになんか行かない! あー腹立つー!!」
機嫌の悪さマックスの私の前に、道を立ち塞ぐ男。
あ゛…
「今、帰りか?」
「・・・」
足早に男の横を通り過ぎようとしたが、その男に腕を掴まれてしまった。
「無視するなよ!」
「何しに来たの?」
この男、半年ほど前まで、私が付き合っていた男。名前は早坂裕人。国内三大ホテルであるTホテルのベルパーソン。知り合ったのは4年前、先輩に誘われて行ったホテルマンの情報交換の場、いわゆる飲み会だった。
裕人の勤務先が、憧れのTホテルと聞いて私は裕人に尊敬の眼差しを向けた。そんな私に、裕人はベルパーソンの仕事に誇りを持っていると話してくれて、仕事の話を熱く語ってくれた。
その後何度かふたりで会うようになり、私の仕事の愚痴を聞いてもらったり、ホテルマンの先輩としてアドバイスをくれた。次第に私の中で彼は大きな存在となっていった。そんな時、裕人に結婚を前提に付き合って欲しいと言われた。
それ迄付き合った男(ひと)は、ホテルマンとしての私の仕事に最初は理解を示してくれるが、ホテルマンと一般の会社員とは休みが合わなくて、ふたりで過ごす時間が少なく、次第に不満を持たれ、浮気されて終わっていた。
私は、裕人の事を尊敬していたし、同業者なら仕事も分かってる。スレ違いが多くても上手くやっていけると思っていた。
でも、違った。