結婚したくてなにが悪い?!
以前の私なら喜んでボスの胸に飛び込んだと思う。でも、今の私はボスの愛を受け入れる事は出来ない。
「…さくらホテルを買収しても、私の心は買収出来ませんよ?」
「フッ… ワタシを振ったのはキョウコが初めてです。いや、二人目ですね?昔、柊真にも振られましたから、少し意味合いは違いますが?」
「ボス?私はボスに感謝してます。ここに来た頃の私は、言葉も文化も違う国で本当にやっていけるか不安でした。誰も仕事教えてくれなくて… スキルの無い私が、世界で一流と言われるホテルで、皆んなに相手にされないのは当然なんですが、あの頃は本当に日本に逃げ帰りたかった…」
「でも、キョウコは逃げなかった?」
「ボスの思いに応えたかったからです。
本当は優しくて面倒見の良いボスが、敢えて私に誰よりも厳しく接して悪者になってくれた。
そのお陰で皆んなに同情され、次第に皆んなから手を差し伸べて貰えるようになって、仕事も教えて貰えるようになった。そして、やっと仲間に迎えてもらえました。
あの時、ボスが優しい言葉だけなら、未だに仲間に迎えられてなかったかもしれません。本当に有難うございました」
ボス。貴方には心の底から感謝してます。
「それはキョウコがワタシの意図を汲む事が出来たからです。
相手の気持ちを分かろうとしなければ、ワタシの意図は分からなかったでしょう。ホテルスタッフにとって、相手が何を求めているか、知ろうとする事は大切な事です。
お客様が何を求めてるか知り、お客様から言われる前にいち早く動く。
それがキョウコには備わっている。それが生まれ持ったものなのか、得たものなのかワタシには分からないですが…」
「あなたの下で働けた事、本当に感謝してます」
「そう思うなら僕のプ…」
私はラウリンの口に指を当て、その後の言葉を遮った。
「ボス?あなたの気持ち嬉しかったです」
「フッ…しつこかったですね?…でも忘れないで下さい。なにか困ったことが有れば、ワタシはいつでもキョウコの力になります。ここにいつでも戻って来て下さい」
「有難うございます」