結婚したくてなにが悪い?!
その時ドアにかかる力が軽くなったと同時に
(バッシン!ドッサ!!)ものすごい音がした。
「なっなんだお前は!?」
怯える様な虚勢を張る裕人の声に、恐る恐る顔を出し見てみれば、裕人は地面に転がり、側に居た男を見上げていた。
「こいつは、今、俺の女だ!」
えっ?
俺の女?
「二度と俺の女に手を出すな! 分かったらとっとと失せろ! クズ野郎!!」
男の怒声が夜闇に響いた。
「チクショウ! このままで済むと思うな!?」
裕人は捨て台詞を吐いて去って行った。
帰ったと思っていたバーテンダーの彼が、また助けてくれたのだ。
「度々すいません… 怪我は無いですよね?」
どう見ても裕人が、彼に何かを出来た様子ではなかった。
「あゝ。それよりあんたの部屋1階なのかよ?」
そう。私の部屋は古い木造アパートの1階なのだ。
「やっぱり暫く俺のところへ来い!」
え?
「このまま置いて帰れないわ?」
「大丈夫です。もう裕人も帰りましたし、ちゃんと鍵掛けますから… 助けて貰って、本当なら、上がって貰ってお茶でもと言いたいところですけど、こんな時間ですし… 申し訳無いですけど、気をつけて帰ってください。」
お礼を言ってドアを閉めようとしたが、男はドアに手を掛け溜息をついて、呆れた顔を向けた。
「あんたホント馬鹿だな?男見る目ないよな?」
確かに男を見る目のないのは、自分でも分かってる。でも、この人に馬鹿って言われるのはどうかと思う。
「あの男また来るぞ? いくら鍵閉めてても、ここガラス窓割って入るくらい簡単だしな? こんだけ騒いでいても、隣室から誰も出て来ないんだから、何があっても誰も助けてくれないぞ?」