結婚したくてなにが悪い?!
新聞がポストに投げ込まれた音で、目を覚まし、体の痛みにいつの間にかソファーで寝てしまったと、昨夜の事が夢でない事に気がつく。
部屋の中を見渡すが、家主である彼の姿はない。
彼は鍵を持っていないと言っていた。だから、居なくてあたりまえだろう。それに女のところに泊まると言っていたから、帰って来るわけが無い。
「やっぱり帰って来なかったか…」
顔を洗おうと洗面所へ向かうと、酷い顔の私が鏡の中に居た。
やっぱり、一晩で腫れはひかないか…
あれから、殴られた顔を氷で冷やしたが、あまり効果は無かったようだ。何とか片手で顔を洗おうとするが、やはり難しい。タオルを濡らしても片手では絞る事さえ出来ない。
やっぱりこれでは仕事にならないなぁ…
「痛っ」
口の中も切っていたようで、含んだ水が傷にしみる。そして左手の傷も痛む。
何か食べて薬を飲もうと冷蔵庫を開ければ、色々入っている。とても男独り暮らしの冷蔵庫とは思えないほどだ。
だが、この手では調理も出来ない。仕方なく野菜室にあったきゅうりを手に取り、塩も何もつけず、ただそのまま囓る。
旨くも不味いもなく、ただきゅうりそのものの味だ。
何とかきゅうりを1本食べて、病院で出してもらった化膿止と、痛み止めを飲んだ。
「はぁ… どうしよう…」
今まで無遅刻無欠勤だったのに…
頭の中で、自分のチームのシフトを思いだす。
「佐久間さん体調どうだろう…良くなったかなぁ? はぁ…皆んなに迷惑かけるなぁ…」
左掌に巻かれた包帯。いくら神経は大丈夫だったとはいえ、まだ昨日の今日で痛みもあるし、力も入らない。他にも、ぶつけた体のあちこちが青痣になっていて、痛みで動きがぎこちない。この顔もお客様に不快を与える。
どんなに考えても溜息しかでない。チームの皆んなに迷惑掛けたくないが、この体ではやっぱり無理だろう。出勤したところで、迷惑を掛ける。小野キャプテンに相談したほうが良さそうだ。