結婚したくてなにが悪い?!
「あら? 生田君も居たんだ? お疲れ様!」
顔を出した小野さんに俺達は「「お疲れ様です。」」と同時に声をかける。小野さんは、昔、俺達の指導係だった。この人には仕事だけじゃ無く、プライベートでも随分世話になった。この人もまた、生田と同じく俺の生い立ちを知る一人だ。
「ええ、見回りがてら?」
小野さんは「そっか、じゃ飲めないね? 残念。」と生田の肩を叩く。そして俺にハイボールと言う。
俺はカウンターの中に入り、ハイボールを作ると小野さんの前にグラスを差し出す。
「相変わらず女性の扱い上手いみたいね? だからモテるんでしょけど?」
「そんな事無いですよ?」
「あら、無自覚? それはそれでタチが悪いわよ?」
無自覚かどうかは別として、据え膳が有れば喰う。それが男としてのマナーだと思ってる。
「まぁ遊ぶ女には苦労した事無いですね?」
「やな男だわ…でも、うちの深田だけには手を出すのは辞めてよ? もし、泣かしたら殺すよ?」
小野さんの言葉に恐怖を感じる。それだけ彼女を可愛がっているのだろう。
「随分物騒ですね? 彼女の保護者ですか?」
「あの子に辞められたら困るのよ! ホテルマンはあの子の天職よ? このままハウスキーパーのグループ長なんかで終わる子じゃない。」と言う小野さんに「同感です。」と生田も言う。
「そうですね? あなたよりもっと上に立つでしょうね?」
「そう。 私よりずっと上に…でも他人にそれを言われると腹立つわね!?」
腹立つと言いながら、小野さんは嬉しそうだ。
俺だって彼女の仕事ぶりを見てれば、ホテルマンが天職だと思う。
だが、それが彼女の望む幸せかどうかってとこだ。