結婚したくてなにが悪い?!
深田が穏便に済ませようとしているのに、小野さんに事を荒立ててもらっては困る。
「小野さん、この件は俺達に任せて下さいね? 小野さんはシフトの方をお願いします。」
「分かってるわよ!」と、言って空になったグラスを俺に差し出した。
「深酒はやめて下さい。 流石に俺も酒癖の悪いおばさんは、持ち帰りしたくないんで?」
生田も空かさず「俺も無理ですよ? 勤務中なんで!」と言う。
「ふたりとも冷たいな〜? あんなに可愛がってあげたのにー!」
「よく言いますよ? 可愛がりという名のシゴキじゃないですか?」
「ホント、あれは鬼のシゴキでしたね! 今で言うなら、パワハラですよ?」と、生田も笑う。
オリエンテーションを終え、現場へ出てからは、小野さんの下、現場教育が始まった。噂に聞いていた通りの鬼の教官だった。
ベットメーキングだけを朝から晩まで、休むことなく1週間練習させられ、それが出来るようになると、床を這いずり周り、髪の毛1本落ちてない様に粘着ローラーで掃除させられる事さらに1週間。
それから水回り、自分で舐めれるくらい綺麗に磨けと言われた。パウダールームの鏡は曇りの無い様に、バスルームも水滴一つ無いように、そしてトイレ掃除は素手。
終いには『綺麗になったと思うなら、便器を舐める事出来るよね?』ときたもんだ。
あの時は、マジでこの人を殴ろうと思った。
女を殴ろうと思ったのは、後にも先にもこの人だけだ。