結婚したくてなにが悪い?!

「彼女と別れたから、自分のツキが悪くなったとでも? だから、彼女と寄りを戻せばツキが戻るとでも思ったのかよ? 自分は浮気しといて? お前ほんとクズだな!?」
暫く黙っていた大田さんが、痺れを切らしたかの様に話し出した。

「煩い! お前に何がわかる!?」
「ああ、分かんねぇよ! 自分の愚かさに、気が付かない奴の言うことなんて、分かんないね!」
「俺が… 俺がどんな思いで…」
「早坂いい加減にしろ!?」
祐人を諌めたのは榛原さんだった。

えっ…榛原さんいつの間に?
そこには生田さんや小野さんもいた。

「ベルは、フロントやドアマンと同様、ホテルの顔なんだ。その中でもベルは、お客様に最も接する時間が多い。だから問題のある人間に、責任のあるポジションは与えられないんだ!」
「俺に問題が合ったと!?」
「君がスタッフと色恋沙汰で揉めてることは、私の耳にも入って来てる。 君と関係持った女性が上に告発したらしい。 君にもて遊ばれたってね?」
「ぇ?…」
裕人は、自分が関係を持った女が、まさか上司に告発してるとは思いもしなかったのだろう。

「男女関係の縺れは片方の話だけでは、分からない事もある。 だが、上に上がって来ては、何も処分しない訳にはいかないんだよ?」

榛原さんの話を聞いて、祐人はクルーにおろされた理由を理解した様で、何も言わず、ただ悔しそうに下唇を噛んで俯いていた。

「今回、君が深田さんに対して行った事はとても残念だよ。君のベルとしての仕事を私も見て来たからね?」

榛原さんにまで知れてしまっては、もう祐人はホテルマンとして終わってしまうだろう。
本当にこれで…

「…っ榛原さん違うんです! 私のケガは知らない酔っぱらいに絡まれて、自分で転んだんです! だから…」

私の言葉に、そこに居たみんなが驚いていた。
だってこのまま終わらせたくない。

「深田さん有難う。 君が警察に届けなかった事には感謝してる。 本当に有難う。 私もホテルマンとしての彼を失いたくない。 私も早坂の力になるつもりだから。」

榛原さんは私達に深々と頭を下げ、祐人を連れて帰って行った。
帰り際、俯いていた祐人の目に光るものが見えた。
きっと祐人は立ち直ってくれる。
私は信じたい。
また、大田さんに "甘い!" って言われるかもしれないけど…




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