結婚したくてなにが悪い?!
私の知る長谷部様は、とても温厚な方で、この様に苛立った姿は見たことがない。
「誰かが盗んだに違いない! 私が寝てる間に誰かが入って盗んだんだ!」
盗んだ?
寝てる間に?それが本当なら、大変な事だ。
客室に泥棒が入ったとなれば、一大事。ホテルの信用問題になる。
しかし、無くなってるものは他にはなく、鞄も貴重品も全てあると言う。
て、事は泥棒でない可能性が高い。
「長谷部様、お休みになる前に札は、お出しになられましたか?」
長谷部様は昼夜関係なく仕事される為、お休みになられる時は、必ずドアに札を出される。その為、私達は部屋を掃除する時間をずらしている。
だが、部屋を見渡せば、掃除されゴミ箱のゴミも片付いている。
「あゝ今朝方まで仕事して居たからね! 起こされたくなかったから、勿論出した!」
もしかしたら…
「深田、今日のこの部屋の担当は?」
入社2年の平田マリだ。
彼女の仕事は丁寧だが、気遣いが足りないところがある。
「平田ですが、私の方で話を聞いて対処します。」
生田さんは「そうか、頼む。」と言って私に任せてくれた。
生田さんは、仕事に関してとても厳しい人だが、スタッフを信頼する事は決して忘れない人だ。
いつも私達を見守り、助けてほしいときは必ず救いの手を出してくれる。私の憧れの人。
今回も、必要以上に口を出さず、私に任せてくれると言う。こうして信頼して任せてくれてる事が嬉しい。
「長谷部様、出版社の方とのお約束の時間は何時でしょうか?」
「21時だ!」
私は「少しお時間を下さい。」と、お願いして、生田さんと一緒に長谷部様の部屋を後にした。
「深田頼むぞ?」
「はい!」
「だが、もしもの時は俺が責任とる。どんな結果でも、勝手に一人で処理するな? 分かったな!」
「はい。 有難うございます。」
くぅーカッコイィー。 生田さん好きです! フロントへ戻って行く生田さんの背中へ、決して言葉に出せない気持ちを伝える。