結婚したくてなにが悪い?!
大田さんの部屋に戻ると、私はソファーへ、ボッスンと座った。
荷物を纏めなくてはいけない事は分かってる。でも、本当に今日は疲れた。
ソファーの背に身体を預け、天井を仰ぎため息をつく。
あれ程初めは躊躇し、戸惑い、困惑していたのに、今は我ながら、随分部屋にも馴染んだものだと可笑しくなる。そしてもう出て行かないといけない現実に、寂しさえ感じる。
天井を仰ぐ私の視界に缶ビールが入った。
え?
「飲みたいだろ?」
私はありがとうと言って受け取り、プルトップを開けると喉に流し込む。
そしてよく冷えたビールに、ブルっと体を震わせる。
「今回の事…榛原さんは知ってたんですね?」
「ああ、生田が相談してた。これ以上大事になっては困るからな?」
大田さんはそう言うとキッチンへ行き、換気扇のスイッチを入れ煙草に火をつけた。
榛原さんは初めから知っていた… だから私に会ったとき、感謝してるって言ったんだ?
祐人の為に… あの人も…
きっと祐人は立ち直ってくれる。
自分の為に、頭を下げてくれる人が側に居てくれるんだもん。
信じて良いよね…?
「しかし、あんたといい、彼奴の周りはお人好しばかりだな? ここまで問題起こしてるんだ普通飛ばすぞ?」
大田さんはやはり納得いかない様だ。
信用第一のホテルマンが、警察沙汰にならなかったとはいえ、犯罪行為をしたのだから、然るべき処分をするべきだと言いたいのだろう。
「ところで大田さんは、生田さんとどんな関係なんですか?」
「ん?」
だって、普通気になるでしょ?
大田さんがうちに来て間もないのに、生田さんの事呼び捨てにしてるんだもん。
「…同期」
「同期…ですか?」
大田さんは「そう」と言ったところで、スマホをポケットから出し確認すると、換気扇のスイッチを消し帰ると行って玄関へ向かった。
「ちょ、ちょっと帰るって、何処に帰るんですか? 祐人の事も片付いたし、私が自分のとこに帰りますから!」
大田さんは「急いで出て行かなくて良いぞ?」っと残して行ってしまった。