結婚したくてなにが悪い?!
そのベルは友田君だった。
友田君もまた、私達を見て一瞬怪訝そうな顔をしたが、直ぐに仕事の顔に戻り、「いらっしゃいませ。フロントまでご案内致します。」と言う。
「…友田君ごめん…宿泊じゃないの…自分で持つから…」
「とんでも御座いません。お客様のお荷物を持つのは、わたくしの仕事ですから。」
荷物を自分で持つと伝えるが、案の定友田君に断られてしまった。彼もまた、ベルとしての仕事を全うしようとしているのだ。仕方ない事だがホント申し訳ない。
「……ゴメン」
申し訳なく思ってる私をよそに、由美は楽しんでいた。
「ねぇ? ここって芸能人も来るの? 今日誰か有名人泊まってる?」
はぁ…
由美…あんたは何やりだすのかな?
「申し訳ございません。 その様なご質問はお答え致しかねます。」
だよね…?
「じゃーさ? あなた彼女居る?」
こらこら由美さん!悪ふざけは、そこ迄にしましょう?
「おりませんが…」
「じゃー好きな人は?」
今まで、マニュアルの様に返していた友田君が、急に立ち止まった。
由美の悪ふざけに、流石に友田君も怒ったようだ。
「由美! いい加減にしなよ!? 友田君ごめんね? 私達バーに来たの… 悪いけど荷物クロークに預けといてくれる?」
由美の悪ふざけに私が耐えきれなくなり、荷物を友田君に頼むと、私は由美を引きずる様にエレベーターに乗り込んだ。
だが、由美はケラケラ笑い「面白かった!」と言う。
「もっ! 悪ふざけし過ぎ! あんたなに考えてるのよ!?」
「友田ってホントヘタレ! 折角わたしがチャンスやったのに?」
「なに訳のわかんないこと言ってるのよ⁉︎ 友田君絶対怒ってるよ?」
由美は反省する気は微塵も無いようで、平気平気と言いながら、尚も笑い続けていた。
なにがそんなに可笑しいのか、私にはまったく分からない。
明日謝っとこ…坂下君にも。