結婚したくてなにが悪い?!

女性客が一人カウンター席に座った。
「いらっしゃいませ。」

俺は眼鏡を中指で上げるふりをして、指の間から女性客を見る。値踏みする訳じゃないが、お客の視線や表情で、常連客もしくは、こういった場になれている客かを見極める。

最近、ホテルのランク付けをする雑誌も多く、覆面ライターが多い。別に通常の接客をしていれば、問題ないのだが、稀に無理難題を言ってスタッフを困らせ、面白可笑しく書くライターも少なく無い。

落ち着き払った物腰、常連客…か?
だが、俺が来て2ヶ月程になるが、この女性は始めてみる。

「ミスティって出来ますか?友達に奨められて初めて飲もうと思ったので、どんなカクテルか知らなくて?」
「畏まりました。」

俺の知る限り、誰かに奨められてと言う理由で、ミスティを頼む女性客は少ない。マイナーという事もあるが、ミスティはアルコール度数が強い。

ミスティは1950年代に発表されたジャズの名曲《ミスティ》のヒットによって、各国でこの曲の名前をもったカクテルがいくつもある。

もし本当に友達にすすめられたとしたら、彼女がアルコールに強い事を知っていての事だろう?
まぁそんなに気にする事は無いのかも知れない。
カクテルを作ると、その女性客の前にコースターを置く。

「お待たせしました。 少しアルコールが強くなっておりますが、お気に召さなければ、仰って下さい。」と言ってコースターの上にカクテルを置く
「有難う。」

彼女は礼を言うとグラスを口へと運び、味わう様にと言うより、なにか探りながら飲んでいる様に見える。

あれは黒だな…



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