結婚したくてなにが悪い?!
尊敬が恋に変わる
翌日、出勤して制服を受け取るため、リネン室にあるワードローブへ制服を貰いに行くと、生田フロントマネージャーが呼んでると教えられた。
何だろうと思いながらも、ロッカーで着替えを済ませて、事務所へ向かった。事務所の扉を開けると生田さんの背中が目に入った。生田さんは誰かと話していたようで、私に気づいた生田さんが振り返ると、生田さんの影になっていた人の姿が現れた。
「おはようございます。うっおっ…おお呼びですか?」
生田さんの影になっていたのは大田さんだったのだ。
まさか大田さんが居るなんて思ってもいなかった私は、思わず変な声を出してしまった。それもいつものバーテンダーの格好と違って、大田さんは黒のスーツを着てボウタイではなく、剣型のネクタイまで締めているのだ。
「おはよう深田さん。あれどうした? 顔が赤いけど大丈夫か?」生田さんの呼びかけに、私は何も応えることが出来なかった。
なんで大田さんが居るのよ!?
大田さんの顔を見て昨夜の事を思いだし、いっきに顔があつくなった。
「深田さん?」
「え?あ、大丈夫です。」
「そうか? ならいいが、実は君にバトラーの内示が出てる。」
「バトラーですか?」
「うん。行く行くは、エグゼクティブフロアのコンシェルジュを君に任せたいという事らしい。暫くは、現コンシェルジュの彼の下について、勉強してくれ」
大田さんがコンシェルジュ?
えっ? バーテンじゃなくて?
新入社員が入る事で、この時期移動の辞令が出るのは珍しくない。でも、私がバトラーなんて…
バトラーとはエグゼクティブフロアの中でもグレードの高い一部の客室ゲストにのみに提供してるサービスで、お客様の日常の手伝いからショッピングに同行したりとコンパニオン的な事柄までの一切を引き受ける。まぁ簡単に言えばセレブの召し使いだ。