結婚したくてなにが悪い?!

「職場じゃなかったら良いのか?」
「フザケナイデ!!」

もう一度叩こうと振り上げた私の右手は大田さんに捕まれ、叩く事を阻止された。
悔しくて、大田さんを睨みつけた。

「あんた口紅持ってる? 直さないと不味いだろ? よれてる。神聖な場所に出るなら、直した方がいいぞ?」そう言って太田さんはポケットからハンカチを出し自分の唇を拭いた。
近くの鏡に映る私はあまりにも無惨な顔だった。

酷い顔…
口紅はよれ、まるでピエロだ。
でも直したくても口紅なんて持ち歩いてない。化粧ポーチもロッカーの中だし…

すると太田さんは「ほらっこれ使え?」と言って、スーツの内ポケットから某有名ブランドの口紅を出し渡してくれた。

「これって…凄く人気でセレブでも手に入らないって噂の…口紅…?」
「早くつけろよ? 神聖な職場が待ってるぞ?」
そうだ! 仕事よ! 仕事!

でも、高価な口紅など使ったことないし、ましてやこんな色使った事ないから似合うかどうか…
けど…
このままでは部屋を出れない。
もし、お客様に会ったりしたら…

自分に似合うか心配だったが、使わせてもらうことにした。

「やっぱりその色の方が、あんたに似合うわ?」と、言って大田さんは微笑んだ。

男の人に口紅などもらったことない。
ましてや似合うなんて言われたこともない。
単純に嬉しいと思った。

″似合う″と言って、見せた彼の微笑みに、胸の奥のなにかが跳ねた。
えっ?
今のなに?

「…これって凄く高いんでしょ?…貰えない…」
「誰がやるっていった?」
「えっ? だって…」
「毎日少しずつ俺に返せよ?」

えっ?
少しずつ返せとは、どういうこと?
考えていると、大田さんは″ちゅっ″と軽くキスをした。

「今はこれだけにしといてやるよ?」

はぁ!?
少しずつ返せって…キスの事??




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