結婚したくてなにが悪い?!

「エミちゃん、お友達のお怪我、お医者んさんに見てもらおうか?」
「お医者さんって…あの…もう古くて汚れてますから結構です。いまから遊園地に行きますから、そこで新しい物買って上げます。 エミちゃん、良いわよね捨てても? エミちゃんの好きなの買ってあげるから?」

女性の ゛捨てても゛と言う言葉に、エミちゃんのクマを抱く腕に力が入るのが分った。

「大丈夫! お姉さん凄く良いお医者さん知ってるから、きっとお友達の怪我治してくれる。安心してお姉さんに預けてくれないかな?」

「本当に結構ですから…」

困りかねてる女性に頭を下げ、預からせて欲しいとお願いした。

どうしてそこ迄するのか自分でも分からない。まだ正式な辞令もおりていない以上、今はまだハウスキーパーだ。そのハウスキーパーの私の仕事にそこ迄の仕事はない。ただ、エミちゃんに小さい頃の自分を重ねていたのかもしれない。

「約束する! エミちゃんが遊園地から帰って来るまでに、お友達を病院から連れて帰ってくるから?」

余程ヌイグルミを離すのが不安なのだろう。エミちゃんは一度ギュッとヌイグルミを抱きしめて、私へと差し出してくれた。

「有難う。 お姉さん約束守るから、エミちゃんは遊園地で楽しんで来て?」

エミちゃんは小さく頷き、女性に手を惹かれて出かけていった。
よく見ると他にもほつれている所や、しっぽが取れかかっている。色もくすんで汚れている。いつも肌見放さす持っていたのだろう。

「さて…これは思ったより大変だぞ?」

私にも覚えがある。物心つく前から側にあったウサギのヌイグルミ、ミミちゃん。多分両親が買ってくれたのだろう。ミミちゃんとはいつも一緒にいた。遊ぶ時も寝る時も一緒だった。

だからよく母が、
『今日はお天気が良いから、ミミちゃんお風呂に入れて、日光浴をさせてあげようね? ミミちゃんが病気になっちゃうと可哀想だもんね?』と、言っていたのを覚えている。

今、思えば、母は私の為に、ヌイグルミを洗って清潔にしてくれていたのだろう。両親が居亡くなってからも、私の心の友であり、たったひとつの宝物だった。

「誰がお姉さんだって? おばさんの間違いじゃないのか?」
「は?」
声の主は大田さんだった。

「それにしても随分汚いヌイグルミだな?」
「大田さん…キタナイッテ…」
「あんた裁縫とか出来るのか? まさか、医務室の先生に看てもらいに持って行ったりしないよな? クマなら獣医だぞ?」
アホか…
「裁縫くらい出来ます。あんまり私を舐めないでください?」

『チュッ』
!?っ…な、なにするの!?

「舐めてないだろ? あーごめんごめん…神聖な場だったな? だが、キスくらい神も許してくれるだろ?」

許すか!?
神が許しても私が許さない!!
お客様が許さないわ!




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