結婚したくてなにが悪い?!
「あの子をがっかりさせないでくれよ? うちの大株主のお孫さんだからな?」
「大株主の孫とか関係ないです! お客様は皆んな大切なお客様です!って言うか、これはエグゼクティブフロア担当である大田さんの仕事じゃないの!?」
「俺は縫い物苦手だからあんたに任せる!」
あ゛?
「あっ風呂は専門家に任せろよ?」
風呂の専門家…?
まさかソープ…?
「そんだけ汚かったら専門家の方が良いだろ? 地下のクリーニングに頼め?」
あっなるほど! お風呂の専門家って、クリーニングの事ね?
「ねぇ? ちょっと聞きたいんだけど? エミちゃんと先程の女性って親子じゃないの?」
「お客様のプライベートの事は答えられない。守秘義務がある事くらい知ってるだろ?」
そのくらい知ってるわよ!でも…
何とかしてあげたい…
「だが、俺の独り言を聞くくらいなら問題ないな?」
独り言…?
「一之瀬様は二年前奥様を事故で亡くされた。一之瀬様は結婚するつもりは無かったらしいが、小さなエミちゃんのことを心配する周囲からの薦めもあって、数ある見合い話を断って、秘書だったあの方と再婚された。元々エミちゃんがあの方になついて居たことが大きな理由で、一之瀬様は結婚に踏み切ったんだが、以前に比べてエミちゃんがあの方と距離を取るようになったらしい。 昨夜もエミちゃんが居なくなった時のあの方の取り乱しかたは、母親そのものだった。」
「えっ? 居なくなったの? で、何処に居たの?」
「中庭で俺が見つけた。」
え? もしかして、昨夜の電話ってエミちゃんのことだったの?
「中庭?」
「ああ、野花を握って眠っていた」
「もしかして、野花を摘んでいて…疲れて眠った?」
「多分な?」
「それって……」
「俺達の仕事はお客様のリクエストに可能な限りお答えする事。その可能な事の幅が広いという事は良いコンシェルジュと言われる。だが、お客様すら気付いていない本当のリクエストに気付く事が出来て、それに応える事が出来るなら、一流のコンシェルジュだと俺は思う。」
お客様すら気付いていないリクエスト…
それを叶えられる人が一流のコンシェルジュ…?
「先ほどのお客様、一之瀬様は大丈夫だと言っていらしたが、あんたはあの子の本当の想いを汲み取り、叶えてあげようとしてる。あんたには一流のコンシェルジュの素質があると俺は思う。」
私に一流のコンシェルジュになる素質が…ある?
「あんた一流のコンシェルジュを目指してみないか? だが、あんたが言う女の幸せの結婚は遠のくと思うが? もしその気が有るなら、俺が上に話をする。」