強引部長の独占ジェラシー
その言葉にたちまち顔が赤くなる。
部長はやっぱり、ズルい。
せっかく必死に隠していた気持ちも簡単に剥ぎ取ってしまう。
分かってるのに、叶わない恋だと自覚してるのに、気づけば簡単に好きだと認めてしまう。
「ズルいなぁ……」
「え?」
小さく呟いた声は石原さんには届かなかった。
オフィスに戻り、私はさっそく石原さんにマークの付け方を教えると、自分の作業に戻った。
メールを開けば午前中、データを送った取引先からOKの連絡が来ていた。
ひとまず、この案件は終わった……。
3度の直しを行い、ようやく出たOKだ。私はふぅ、と安堵のため息を漏らした。
次の仕事に移ろうとした時、向かいで聞きなれた声がする。ちらっと目を向けてみると、そこで話していたのは部長だった。
「村井、今度出す広告の確認をしたいだが、データはあるか?」
「はい、ここにあります」
部長が広報部の女性と話している。
もう、戻って来てたんだ……。
同じ空間にいるだけで、意識して緊張してしまうなんてまるで初めて恋をした子どもみたいで恥ずかしい。
すると。
ーーパチ。
「っ、」
ファイルを持った部長がこっちに向き直ったと同時に目が合った。
しまった……と、焦る私をよそに先に先に目を逸らしたのは部長の方で、斜め下に降ろされる視線はなんだか気まずいものをみた時のようなものだった。