強引部長の独占ジェラシー
「背中のちょうど背骨の辺りだ。なんだか黒いから虫かもしれない」
「や、やだ!と、取って下さい……」
慌てて部長に背中を向け、自分は固く目をつぶると部長は普通の声のトーンで言った。
「ウソだ」
「えっ?」
「何も付いてない」
「嘘!?」
「ああ」
しれっと返事をする部長に私はむっ、と口を尖らせた。
「……もう!からかうなんてヒドイですよ!」
部長の方に向き直った私はいくらか緊張がとれて、肩の力が降りていた。
「ふっ、すまないな。まさか騙されるとは思わなくて」
「誰でも虫が付いてるなんて言われたら信じますよ……」
優しく笑う部長を横目にペットボトルのフタを捻る。喉の渇きを潤すためにひと口飲むと、その場は沈黙に包まれた。
「昨日、」
部長がその空気を断ち切るように言った時、私は慌てて頭を下げた。
「あの時は動揺しちゃって……いきなり逃げてすいませんでした!パニックになってて」
「あ、いや……俺の方こそすまなかったな。本当に聞くつもりは無かったんだが……」
再びやって来た沈黙はさっきよりも重い。
やっぱり気まずい……。
「それで、」
「はい?」
それでの意味が分からず部長の目を見て聞き返す。
「お前は河原と付き合っているのか?」
「えっ!」
まさか部長からそんな言葉が出てくると思っていなくて、私は思わず目を丸めた。