To a loved one 〜愛しき者へ〜

戦友

この時代の、女子高生達の平均寿命は短かった...。
戦で命を落とす者が多いのも原因の一つであるが、それだけではない...。
戦で命を落とさなくても、度重なる戦などで、精神的・肉体的に弱ってくるのだ。

《ゴホッゴホッ》
と、武田真夏は咳き込んだ。

「真夏様、大丈夫ですか?」
と、真田純奈が訊いた。

「うーん、多分...。」
と、真夏は答えた。

「あまり無理をされない方がよろしいかと...」
純奈が言った。

「で、でも...。」
と真夏は言ったあとに、
《ゴホッゴホッ》
っと咳き込んだ。
「ゆ、優里達の想いを...。」
《ゴホッゴホッ》
真夏は、また咳き込んだ。

「真夏様、一度引き上げましょう。」
と、純奈が言った。

「わ、分かったわ...。」
真夏は、渋々頷いた。

そして、真夏達は信濃地区方面経由で、躑躅ヶ崎女子高へと戻る事にした。

━━その途中、真夏は吐血して倒れてしまった。
そして、信濃地区の駒場(こまば)総合病院に緊急搬送された。

━━大名は、各地にスパイのような者達を送り込んでいた...。

地方により呼び方は異なるが、主に《素破(すっぱ)》や《乱破(らっぱ)》などと呼ばれている。

素破や乱破は、実際の戦国時代で使用されていた言葉である。
ちなみに素破は、報道などで使われる《すっぱ抜き》の語源になったと言われている。


━━春日山女学院天守。

「一美様!!」
直江かりんが天守に来た。

「かりんちゃん、どうしたの?」
上杉一美が訊いた。

「武田真夏が緊急搬送されました!!」
と、かりんは言った。

上杉家の素破から、かりんに連絡が入ったのだ。

「えっ!?真夏が!?」
と、一美は驚いた。

「はい、信濃経由で甲斐に戻る途中だったそうです。」
と、かりんは答えた。

「......。」
一美は、少し間を置いて、
「かりんちゃん...。」
と言った。

「はい。」
かりんが返事をする。

「一緒に来て欲しいの。」
と、一美は言った...。


━━駒場総合病院。
真夏は、病室で静かに眠っていた。

原因は、日頃の戦などのストレスからくるものだった...。
こんな時に、真夏が討たれたら一大事なので、真夏の家臣達は、病院を囲うように警備していた。

すると、一台の黒い車が病院に入って来た。
━━黒のマスタング、一美とかりんの乗った車だ。

気付いた家臣達は、一美の車を取り囲んだ。
「真夏に...会いに来たんだけど...。」
車の窓を開けて、一美が言った。

「真夏様を討ちに来たのか!?。」
と、真夏の家臣が言った。

「違うわ。」
一実は答えた。

「嘘つけ!!」
家臣は、一実を睨んだ。

━━すると、
「お通しして!!」
と、大きな声がした。

━━純奈である。

「じゅ、純奈様...。」
と、家臣が言った。

「いいから、お通しして。」
と、純奈。
「し、しかし...。」
と、家臣は納得していない。

「真夏様がこんな時に攻め込んで来る程、一美様は卑怯なお方ではない。」
と、純奈は家臣を睨んだ。

━━家臣達は渋々、車から離れた。

「一美様、失礼致しました。
真夏様の病室は208号室です。」
と、純奈は一美達に言った。

「純奈、有難う。」
と言って、一美達は病室に向かった。

━━208号室。
一美とかりんは、真夏の病室にいた。

二人に気付いたのか、真夏が目を開けた。
「...一美...?...かりん...?」
小さな声で、真夏が言った。

「...ごめん...起こしちゃった?」
と、一美が言った。

真夏は、ゆっくり首を横に振った。

「...私...もう...駄目みたい...。」
弱々しい声で、真夏が言う。

「何言ってんの、大丈夫だよ。」
と、一美は言った。

「私の可愛いさ...全国に...知らしめたかったのに…。」
と、真夏は言った。

「そんな冗談が言えるなら、大丈夫だよ。」
と、一美。

「冗談...なんかじゃ...ないわ...。」
悪戯っぽく真夏が笑う。

「うん、そうだね...。
真夏は可愛いよね...。」
と、一美は言った。

真夏がスっと手を差し出して来た。
一美は、真夏の手を握った。

「一美とかりん達に...逢えて良かった。」
と、真夏。

「私も...。」
と一美。

「私もです...。」
と、かりん。

「もっと別な時代に、二人に逢いたかったなぁ...。」
最後の方は、聴き取るのがやっとな程、小さくなっていた。

「...来てくれて...有難う...。」
そう言うと、真夏は静かに目を閉じた。

「...ま、真夏...。」
と、一美は呼び掛けた。

もう真夏の声を聴く事はなかった...。
「真夏...。」
「真夏さん...。」
一美とかりんは涙を流した。

武田真夏、高校三年生。
可愛らしい花が散った日である...。
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