To a loved one 〜愛しき者へ〜

正徳寺の会見

━━愛知県尾張地区富田にある、正徳寺ホテル一階。

そこのラウンジで、愛未は待っていた。
その横には、一人の男子生徒が座っている。

「待たせたね…。」
と声がする。

愛未は、声がした方を向く。

「!?」
愛未は目を見開いた。

そこに立っていたのは━━佑美である。
自分で呼び付けたのだから、本来驚く事ではないのだが、愛未が驚いたのは佑美の服装である。
白いロングのフレアスカートに、ジーンズ系のジャケット。
カジュアルなのにどこか上品な、気品と清潔感溢れる美少女スタイルだ。
元々が美少女なので、似合わないはずがない。
ラウンジにいる他の客も、思わず見とれてしまう。

「う、うん、まぁ…座りなよ。」
と愛未が言う。
(佑美は、ガサツというイメージが浸透しているが、実は違う...。
しっかりとTPOをわきまえている…。)
愛未は、 そう思った。

促されて佑美が座る。

「要件は?」
と佑美が訊く。

「━━実は…。」
愛未が語り始める…。


「……!?」
佑美は驚きを隠せない。

「どうかな?」
と、愛未が訊く。

「と、突然過ぎるだろ…。」
佑美が口を開いて、
「━━いきなり弟と付き合えって…。」
と言った。

「まぁ、そうなんだけど…。」
愛未は弟を見てから、
「こう見えても、うちの弟、結構モテるんだよ。」
と続けた。

━━確かに、愛未の弟で一年生の斎藤淳(さいとう・じゅん)は、なかなかのイケメンである。

「そんなにモテるなら、別に私じゃなくても.....。」
佑美は、少し間をおいて、
「なのに、何で私...?」
と言った。

「以前、私と争ってる佑美を見て、一目惚れしたみたい。」
と言って、愛未は苦笑した。

「か、変わってるな...。」
佑美はポカンとした。

「で、どうかな?」
愛未が促す。

「......。」
佑美は少し間をおいて、
「きゅ、急過ぎて驚いてる...。
少し時間を貰えないかな?」
と答えた。

「分かった。」
と、愛未は言うと、
「今日はこれで帰るよ。」
と、淳を見た。

淳は黙って頷くと、佑美の方を見て、
頭を下げた。

そして二人は、佑美を残してラウンジをあとにした。

━━姉に付き添って貰っての告白など、有り得ないと思われただろう...。
しかし、この時代は、これが当たり前なのである。

━━戦国時代、武士の子供は、自分で相手を決める事が出来ず、親が戦略結婚をする為に、結婚相手を決めていた。
この時代も、それと同じように、男子生徒、特に姉がいる男子は、むやみやたらに勝手に恋愛が出来ず、姉の戦略の為の、戦略恋愛の要員としての位置付けが強い。
だから基本的に男子からは、告白する事が殆ど出来ない。

佑美の性格上、あのような言い方をしたが、佑美の心は決まっていた。

佑美も、淳に一目惚れしていたのだ。
それに、この交際によって斎藤と同盟(どうめい)が結べる。
同盟を結べば、斎藤とは争わなくて済む...。
東から今川が進撃してくる恐れのある今、佑美にとっては、願ったり叶ったりの縁談である。

数日後、佑美は愛未に、淳との交際を承知する旨のメールを送った。

━━それを知った清州の羽柴麻衣は、《緊急集会》と題し、全校生徒を体育館に集めた。
そして、
「この度、織田佑美様が、稲葉山の斎藤愛未様の弟君(おとうとぎみ)、淳様と交際する事が決定致しました。」
と発表した。

「これに伴い、美濃地区と尾張地区での同盟が発足致します。
よって、美濃地区の生徒の方とは、喧嘩などのトラブルを起こさないようにして下さい。
よろしいでしょうか?」
と、麻衣が言う。

「はい、かしこまりました。」
と、全校生徒が返事をする。

━━同盟を結んだ学校は相手の学校と、トラブルを起こしてはならない。
生徒間でトラブルが起きると、最悪の場合、同盟破棄になりかねない。
特に今回は、尾張地区の大名の佑美と、美濃地区の大名の愛未との間で結ばれた同盟なので、学校単位ではなく、地区単位での同盟となる為、尾張地区の全学校は、美濃地区の全学校とのトラブルは厳禁である。

佑美は、少しホッとしていた。
西の斎藤は、味方になった。

あとは、東からの今川に注意をするだけだ...。
< 3 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop