To a loved one 〜愛しき者へ〜

穏やかな日々...

「ありがとうございました。」
真田未央奈は、頭を下げた。

「こちらこそ、楽しかったです。」
直江かりんが言った。

「また、いつでも来て下さいね。」
上杉史緒里が言った。

━━越後地区春日山女学院前。

未央奈は、一ヶ月の春日山女学院での生活を終えて、学校を後にするところだ。
ここでの生活で、未央奈はすっかり二人に懐いてしまった。

史緒里からは、トロンボーンを教わったり、かりんからは将棋を教わったりした。

さすが越後地区というぐらい、ご飯も美味しかった。

「次はどうするの?」
と、かりんが訊いた。

「大坂女学園に行きます。」
と、未央奈は答えた。

「気を付けてね...。」
史緒里は、涙を浮かべていた。

「ありがとうございます。」
未央奈も涙ぐむ。

「二人共、泣いてるんですか?」
と言った、かりんも涙ぐむ。

そして、三人は手を合わせた...。


━━安芸地区吉田郡山女子高天守。

「まあや様」
と、家臣が声をかけて来た。

「どうしたの?」
まあやは、家臣を見た。

「石田絵梨花様がいらっしゃいました。
応接室にて、お待ち頂いております。」
と、家臣が答えた。

「すぐに行くわ。」
と言って、まあやは応接室に向かった。

「お待たせ致しました。」
まあやが挨拶をした。

「いいえ。」
絵梨花は返事をしてから、
「何か困ってる事とかは、ございませんか?」
と、訊いた。

「はい、特に問題ございません。
絵梨花様のおかげです。」
と、まあやは答えた。

絵梨花は一年生で、まあやは三年生であるが、絵梨花は豊臣麻衣の家臣なので、敬語で話している。

それに、まあやは絵梨花に感謝しているのだ。
まあやが降伏する際に、まあや達の待遇が悪くならないように、上手く間を取り持ってくれたのが、交渉役の絵梨花だった。

まあやだけでなく、薩摩地区内女子高の島津怜奈も同様に降伏の際、絵梨花が上手く取りまとめてくれた。

絵梨花は優しい性格なので、出来るだけ降伏した側が困らないように、色々と麻衣に働きかけてくれていた。
麻衣も、別に待遇を悪くしたい訳ではないので、積極的に絵梨花の意見を取り入れた。

その為、まだ一年生ではあるが、降伏した大名達から慕われていた。

━━今日は、待遇などで問題ないかを聞きに来てくれたようだ。


━━数日後。
未央奈は、大坂女学園に来ていた。

「宜しくお願いします。」
未央奈は、頭を下げた。

「未央奈、久し振りね。」
と、大谷沙友理が出迎えてくれた。

「お久しぶりです。
麻衣様や、絵梨花様もお元気ですか?」
と、未央奈は訊いた。

「ええ、おかげ様で。」
と、沙友理が答える。

━━突然、
「未央奈さん、私の事を忘れてるー。」
と、声がした。

未央奈は、声のした方を見た。
「じゃーん!」
と、言いながら顔を出してきたのは、
━━豊臣蓮加だった。

「あ、蓮加様。」
と、未央奈は頭を下げて、
「忘れてませんよ。」
と言った。

「だって今、私の名前が出なかったもん。」
と、蓮加はふくれた。

「申し訳ございません。
こちらにいらしてるとは、知らなくて。」
と、未央奈は謝った。

「そうだよね。
本来、中学生がいる所じゃないし。」
と、蓮加は微笑してから、
「沙友理さん、私達で、未央奈さんに大坂女学園をご案内しましょう。」
と、沙友理に言った。

「かしこまりました。
では未央奈、行きましょう。」
沙友理は、未央奈を促した。

「はい。」
と、未央奈は返事をした。

そして、三人は校舎の中へと入って行った。


━━三人が廊下を歩いていると、美しいピアノの
音色が聞こえて来る。

「うわぁ、上手い!!」
と、未央奈は感激している様子。

「あ、あれは、絵梨花よ。」
と、沙友理が答えた。

三人は、ピアノの音がする音楽室へと向かった。
絵梨花がピアノを弾いていた。
滑らかな指の動きが奏でる、繊細で優しいメロディー...。
しばらく、三人は聴き入っていた。

━━演奏を終えた絵梨花が、三人に気付く。

「あ!! 未央奈、久しぶりー。」
と、絵梨花が笑顔になる。

「お久しぶりです。」
と、未央奈は頭を下げた。

「小田原攻め以来かな?」
と、絵梨花が訊く。

「はい、小田原以来です。」
と、未央奈は答えた。

「絵梨花さん、相変わらずピアノ上手。」
と、蓮加が言った。

「ありがとうございます。」
絵梨花が、頭を下げた。

「何という曲ですか?」
と、未央奈が訊いた。

「今のは、ショパンのエチュードよ。」
と、絵梨花が答えた。

「?...ショパンの...エッチなやつ...?」
未央奈は、首を傾げた。

未央奈以外の三人は笑い出した。

「あんた、どういう耳してんのよ!」
呆れる、絵梨花であった...。

大きな戦もなくなった...。

こんな穏やかな日々が、ずっと続けばいいと願う四人であった...。
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