To a loved one 〜愛しき者へ〜

激動の稲葉山

斎藤愛未は悩んでいた...。

それは、斎藤家の後継者である。

三年生で、長女の斎藤愛未。
二年生で、二女の斎藤綾乃(あやの)。
一年生で、三女の斎藤みり愛(みりあ)。
ちなみにみり愛には、双子の弟がいる。
それが、淳である。

━━お気付きだろうか?
長女の愛未と三女のみり愛には、共通の文字の《愛》が付いているが、二女の綾乃には付いていない。

これには理由があった。
二女の綾乃だけ、父親と別の女性との間に出来た子供で、母親が違うからだ。
愛未とみり愛は、母親から《愛》の字を取って付けられた。

その事に関して、愛未は気にしていなかった。
たとえ、母親が違っても大切な妹だと思っている。
本来なら二女の綾乃が、愛未の跡を継ぐべきだし、家臣達もそう思っている。

しかし愛未は、みり愛に跡を継がせようと考え始めていたのだ。
愛未は、人を見る目に長(た)けている少女だ。
みり愛の方がまとめる力もあり、大名向きの女子高生である。
一方、綾乃はフォローする力に長けているが、大名向きではない。

美濃地区は元々、かなり激戦区だったが、それを愛未が一人で制圧した。
みり愛なら何とか上手くやれそうだが、綾乃には少しキツい地区だと思っていた。

だから、みり愛に跡を継がせて、綾乃に補佐をして貰いたかった...。

━━純粋に、それだけの理由だ。

しかし愛未は、胸のうちを言葉で表現するのが苦手なので、そのような考えを誰にも言えないでいた...。

ただ、決定事項として、
「みり愛に跡を継がせようと思っている。」
とだけ、綾乃、みり愛、家臣達の前で言ってしまったのだ。

━━ここは稲葉山女子高の体育館。

これには家臣達や、綾乃、みり愛の当人達も驚いた。

「━━私?」
みり愛が口を開く。

━━斎藤みり愛、高校一年生。
肩までの茶髪が似合う、小柄な美少女だ。
よく姉達がお菓子とかを食べていると、
「一口ちょうだい。」
と、せがんで来るので、姉達から《一口ちょうだいオバケ》とからかわれている、いかにも妹っていうタイプの美少女だ。
一つ上の姉である綾乃を慕っていて、綾乃に跡を継いで貰いたいと思っていた。
愛未もみり愛も、綾乃だけ母親が違う事など、全く気にしていなかった。

「......。」
綾乃は黙って下を向いている。
そして、そのまま体育館を出て行った。
━━斎藤綾乃、高校二年生。
茶髪のロングが似合う、ほんわかした感じの美少女で、《フワフワ姉(ねえ)さん》という言葉が似合いそうだ。
綾乃は、自分だけ母親が違う事へのコンプレックスが強かった。
それが理由で、後継者に選ばれなかったと勘違いしてしまったのだ。
別に大名になりたかった訳ではなかった。
どちらかと言えば、フォローする方が得意だ。
妹のみり愛の方が、大名向きであると思っている。
━━ただ、自分が虐(しいた)げられている気がしてしまったのだ。

そして綾乃は、ある決心をした...。

━━清州女子高天守。

「━━佑美様!!」
羽柴麻衣が、織田佑美に駆け寄って来た!!

「どうかしたの?」
佑美が麻衣を見る。

「稲葉山で謀反(むほん)です!!」
と、麻衣が言う。

━━謀反とは、家臣が主君(しゅくん)に逆らって、兵を起こすクーデターである。

「!?」
佑美が驚く。

「斎藤家二女の綾乃様が謀反を起こし、三女のみり愛様を討(う)ちました。」
と、麻衣が言った。

━━綾乃がみり愛を討った。
これは、綾乃がみり愛の命を奪った事を意味する。
本来なら罪に問われるが、この時代、女子高生の戦で命を奪っても、《違法性阻却事由(いほうせいそきゃくじゆ)》が適用されて罪に問われなかった。
違法性阻却事由とは、「本来なら違法であるが、ある条件付きで違法にならない、罪にならない。」
という意味である。
例えば、プロボクサーが試合中に相手を殴って、命を奪ってしまっても、違法性阻却事由が適用されて罪にはならないが、街中で喧嘩をして、相手を殴って命を奪った場合、違法性阻却事由は適用されず、罪に問われる。
勿論、試合中に凶器などの道具を使った場合も、適用されない...。

「佑美様、愛未様が危ないです。」
と、麻衣が言う。

「麻衣、今すぐ出来るだけ生徒を集めて欲しい。
愛未の援護に向かう。」
と、佑美が言った。

「かしこまりました。
すぐに準備致します。」
そう言って、麻衣は天守を出ていった。

(愛未...無事でいて...。)
佑美は、そう思っていた。
確かに愛未とはライバルではあるが、戦友でもある。
そして、淳の姉でもある。

佑美は、気が気ではなかった...。
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